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新ダネと野菜種子の寿命について

「菜種刈る」「菜種干す」「菜種打つ」いずれも、日本の初夏の、季語である。

 春にトウ立ちし、満開の菜の花を咲かせた白菜や、カブ、小松菜などのアブラナ科野菜は、初夏に成熟して梅雨入り前後にタネが実る。大根、葱などの秋まき野菜も、みな同様である。
 採種農家の畑で、茎ごと刈り取られたタネは、梅雨を避けて軒端で干され、晴れ間を見てサヤから脱穀され、各戸ごとに計量されて、採種農家の組合を通じて種苗メーカーに買い取られる。

 種苗メーカーの手に渡ったタネは、異物や未熟種子などがふるい分けられ、梅雨時の湿気や盛夏の高温を過ぎても発芽力を失わないように乾燥され(含水量が少ないほど高温多湿に耐えられる)、メーカーによっては殺菌剤や発芽促進のための薬剤が塗布された後、袋詰めや缶詰めにされて、種苗小売店に向けて発送される。
 こうして秋の新ダネが小売店の店頭に並ぶのは、例年、早いもので6月下旬、多くは7月になる。タネの成熟が盛夏にかかる玉葱などは、8月に入らないと新ダネが入荷しないのが普通だ。(これ以前に店頭に並んでいる秋野菜のタネは、100パーセント古い=ヒネ種子=と思って間違いない)

 近年、大手メーカーは、採種地を海外に移しているため、採種時期に変化が生じているが、国内野菜産地の播種期が変わらない以上、流通時期に変化は現れていない。南米産など日本の季節外れに採れたタネは、これ幸いと発芽検定や(一代雑種にとって最も怖い「交配ミス」を発見するための)遺伝子調査や、異常株発見のための試験栽培に、この貴重なタイムラグを過ごしている。


 ところで、
  「こんなに蒔ききれないんですが、このタネは来年も使えますか?」
 と、店頭でお客様によく聞かれるが、
「野菜の種類によって、タネの寿命が違うし、採種地のその年の天候によって、充実の度合いも違うから、一概に言えませんけど、信用できる小売種苗店の新ダネだったら、お茶の缶などに乾燥剤などと一緒に入れて、冷蔵庫の野菜ケースなど5℃位で温度が一定の場所にしまって置けば、数年は大丈夫ですよ。温度と湿度が低くて一定している所なら、タネの生命力はそんなに落ちません」
 と、答えている。そして、
「ただ、外気温の変化をそのまま受ける所や、湿気の多い所に保存した場合、日本の真夏の高温多湿を経験するごとに、確実にタネの寿命は尽きてきます」
 と、付け加える。

 例えば、寿命の短いタネの代名詞である玉葱の場合、北海道では常温で7年貯蔵できたそうであるが、本州では2年後、台湾では1年後に死滅していたという。高温多湿が、いかにタネの寿命を縮めるかわかる。(出典:井上頼数編『蔬菜採種ハンドブック』養賢堂1967)

 また、低温低湿度で変化のない理想的な状態で数年保存されたタネも、いったん外に出され、直射日光の当るような高温の場所に置かれると、環境の激変で急激に体力を消耗し、寿命が尽きて発芽率が落ちてしまう。冷蔵庫から取り出したら、なるべく日数を置かずに蒔いてしまうことである。


 採種後、本州常温下での野菜種子の品種ごとの寿命は、おおむね以下の通りである。
 (上掲書より=原資料は1933/近藤による=)

A.短命種子(1〜2年)
 葱、玉葱、人参、三つ葉、落花生

B.やや短命種子(2〜3年)
 キャベツ、レタス、唐辛子、豌豆、インゲン、そら豆、牛蒡、法蓮草

C.やや長命(2〜3年)
 大根、カブ、白菜、漬菜類、胡瓜、南瓜

D.長命種子(4年以上)
 茄子、トマト、西瓜


[ひとりごと]
HTML のタグを完全に忘却するくらいサボってしまった。(-"- )
最初の構想が大きすぎて、能力も時間も、肝心な意欲も、みんな追い付かない。
せっかくパソコンを商売に役立てようと始めたのに、このままでは、足を引っぱるばかり。
(春用に仕入れた固定種の茄子や胡瓜やトマトのタネも、結局処分するはめになった)
なんとか2000年度の秋物から、注文がうけられるようにしたいのだが…。
入荷する新ダネの、発芽試験と、データベース化と、袋詰めに忙殺されそうな7月がやってきた。
(2000.7.1)


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